1. 水性ペン

水性ペンで書いた君との約束の上に
紙パックのドロドロしたお酒を零したんだ
君といっしょにいたいのか いたくないのかも読み取れない

水性ペンで描いた僕の青写真の上に
気が抜けて生温くなったビールを零したんだ
どれがいつの どこで誰の 何がなんだかも分からない

晴れた8月の空に言葉を透かしたら
滲んで乾いたインクは何とでも読めそうさ

水性ペンで書いた冗談と行間の本音を
ポケットにしまったまま洗濯機で回したんだ
望んだ答えも 望まない答えも同じにしか見えない

パズルのように千切れた欠片を集めたら
でたらめに並べても 少し満たされそうさ

2. つきあたり

夜の突き当たりで息を潜めているのか?
蛍光灯では君の姿は照らせない
夜のほの明るみで誰かの手を握ってるのか?
僕の右手は青く冷たいまま

夕方の踏み切りの向こうで 誰かが合図を出したら
君の過去も僕の未来も 全部いっぺんに揺れた

夜の突き当たりでいつか君に出会ったことを
口に含んで苦くなるまで味わう
この夜のどこかで君らしく笑っているのを
目を閉じ手を止めて逃げ場もなく思い出した

夕焼けの歩道橋の上 子供が泣き出したら
甘いだけのお酒をこぼして 全部いっぺんに滲んだ

3. リーガル

大事な場面だ 君が頬杖をついて
どんな顔だった? 笑ったか?泣いたか?
何を話してた? それが最後なのか?
後姿以外 何も蘇らない

時が自由にした僕の過去は 昨日に背中を押されどこか遠くへ逃げる
時が不自由にした僕のこの両足じゃ 早く走れない もう追いつけそうにない

玄関を開けた 踵で靴を踏んで
君が出て行った キッカケは何だ?
いつからずれていた? それより君は誰だ?
リーガルの靴以外 何も蘇らない

時が自由にした僕の過去は ほどけたビーズのように散って 四方八方へ消える
時が不自由にした僕の霞んだ視力じゃ 姿を追えない もう追いつけそうにない

4. 竹尺

朝から晩まででも持て余すような 一日がどこまでも続いているから
永遠という言葉で表せるような 終端が霞んで見える毎日

そんな永遠はせいぜい竹尺の30cm

厚いペイバーバックの1ページのような 退屈な序章がいつまでも続いて
物語は起承転結を忘れ 最後のページまでダラダラ進んだ

片手の長さにも満たない時間を それでもただ持て余していたんだ

僕の永遠はせいぜい竹尺の30cm

5. デコボコ

デコボコした僕らのこの空は
絵本にあるような 青一色ではないけれど
乾いて割れた土を湿らす雲があり
僕らのデコボコを平らにする真っ暗な夜もある

デコボコした僕らのこの一日に
絵本にあるような 起承転結はないけれど
目印付ければ 今日は昨日とは違う
1年よりも長い1日 瞬きよりも短い1日もある

このデコボコした世界がこれからも
君の心を乱したり 満たしたりするだろう

デコボコした君の午後の不機嫌を
僕は今日も遠くから 眺めて1日を過ごす
その両手足と口で 出来るだけの音を出して
不機嫌がうつるぐらい 何もかもがどうでもよくなるぐらい

このデコボコした世界がこれからも
僕の心を乱したり 満たしたりして欲しい

6. プルリング

プルリング はじけた泡の向こうに
戻れない 君の暖かい言葉がある
ジューサー かき混ぜた歌に合わせて
1000回目の同じ夜へ向かう

タバコが繰り返しその煙で
かび臭い古い匂いまで洗った
今が続いているその象徴が
侘しさであるならばどうすればいい

同じ夢を見てる 匂いを頼りにして
ぼんやりと曇っても そこにあるのは分かる
同じ夢を見てる あの頃の僕と寸分違わない
ただ明日が減って 君がいないだけ

プルリング 弾けた泡の手前で
卑怯に逃げ続ける僕がいる
誰にも知られない夜の
半分眠ったような最後の1滴

7. 奥行き

夕日が西の方を遠い場所だと知らせてから
寒色が広がり 奥行きがなくなったら
平面のような 君の言葉が 今夜も僕をうろうろさせてる
君の欲しいモノはきっと 僕の知っているどれでもないんだ

雷鳴と雨が 幾層かに並んで
音を打ち消し 無音ノイズになって 奥行きがなくなったら
白壁のような 君の無言が 今夜も僕をこの場に留める
君が行きたい場所はきっと 僕のたどり着けるどこでもないんだ

8. 自転車

君の街まで自転車の距離
今の僕には だいぶ遠い
今でもまだ そこにあるかな
ボロの自転車に油をさして ペダルを踏んだ

タバコ屋の看板はそのまま
上り坂が終わったら後は風の中
シーソーと雲梯の公園を抜けて
次の角を曲がったらすぐの所が君の家

二人乗りのまま坂を登った
君の重みが そこにあるようで
今はどの街で 誰といるかな
萎んだチューブに空気を入れて ペダルを踏んだ

見違えるほど変わった街を抜け
見慣れた街の断片を見つけて
毛の生えた心臓が震えだしたら
どこにでもあるような2階建てのやつが君の家

9. 弾力

君を追いかけ 靴で海渡って 砂漠を泳いで 人を掻き分け
見失ったんだ 後少しのところで
おかげで僕は 小さな冒険家
弾力を失ったスニーカーで 駆け出して 北極点まで

認められたくて ライセンスを取って 頭を下げて お金まで貰って
間違ってたんだ 左を右にして
おかげで僕は 小さなビジネスマン
弾力を失った頭で 勝利して 負ける番を待ってる

情熱は 古いジーンズの ポケットの中に 入れ忘れたまま
氷点下100度の押入れで
弾力を失って僕になる

10. 中毒

僕の点滅を落ち着かせる言葉を 薬箱から出して動脈に刺す
副作用が収まれば世界が微笑む

君の不運を 僕よりもひどいのを 甘いジュースに混ぜて一息に飲む
無呼吸から醒めれば僕だけが生き残る

都合のいい光景が 足元を見えなくする
夜を早送りして朝がはじまる

忘れたいことを 忘れたくないことを 残らず燃やして 煙にして吸い込む
沁みる目を開けば 君がまた会いにくる

都合のいい喝采が 曲のテンポを速くする
自転を早送りして明日がはじまる

11. ウラノソラ

必要になる 必要にない その日によるので分からない
どうでもいいこと 伝えたいこと 真逆に思われてズレていく

難解な話題 複雑な事情 説明の途中で違う話
饒舌になる 神妙になる ウワノソラだから聞いていない

テーブルごしの君を 双眼鏡で見てるみたいだ
憶えたての手旗信号じゃ やっているこっちがウワノソラ

共感を呼ぶ 反感を買う その日によるので分からない
愛想が良い 機嫌が悪い 昨日と同じとはいかない

心に触れる 体に触れる 許される範囲が分からない
嘘っぽくない絶妙なフォローも ウワノソラだから聞いていない

右手を繋いで歩く君は よくできた人形みたいだ
ディテールがやけにリアルで 胸から腰の辺りにウラノソラ

12. あいまい

大切なものを失うことにした 理由を聞かれて曖昧に答えた
アップダウンを繰り返してようやく辿り着いたのは 標高0メートルの混沌とした今

曖昧さだけが確かに見えた 海なのか空なのか どちらでもいい青の一色
曖昧さだけが透明に見えた 雨なのか涙なのか どちらでもいい境面の一滴

俯瞰から見れば前進は後退 拡大鏡で見れば一部は総体
盲目な焦燥感は焦げたバターの香りで 貪りついた僕の口元は真っ黒

曖昧さだけが確かに見えた 勝利なのか敗北なのか どちらでもよくなる疲労感
曖昧さだけが永遠に思えた 昨日なのか明日なのか どちらでもいい通り過ぎる時間

曖昧さだけが本当の言葉だった いったい何が正しいのか どちらでもいい どちらでもよくない

13. 傘

固く閉じていた傘の 塩ビのにおい
きっと君は嫌がっただろう

あの日雨が降らないまま 君は去って
止まった時の外で 僕だけ年をとった

秋雨に夏の匂いがしたから
信号が変わっても ただそこで待ってる


時間の価値は 階段を駆け上がって
僕の手には届かない高みへ消えた

ペンキの剥がれ落ちた 2人掛けのベンチの
背もたれに傘を掛けて あと少し続きを待つ

雨の日を選んで 君が戻れるように
傘は閉じたまま 塩ビの匂いのまま

秋雨に夏の匂いがしたから
時代が変わっても まだそこで待ってる

14. 半減期

フィルムの外に主役がいるまま 映画はラストシーン
始まりの場面も思い出せない早送り

人と車の忙しそうな往来は 残像しかない早送り

今朝ちょうど半減期
世界がそっと半分になる日
半減した喜び悲しみを辿ったなら
目を閉じた僕の前を 早送りの映像が流れた

雲のきしむ音しか聞こえない
真っ黒な夜空の早送り

今夜ちょうど半減期
僕らがそっと半分になる日
半減した感傷 焦燥を辿ったなら
流線型の宇宙船で 去っていく僕自身が見えた

ダウンロードについて

すべての曲をSoundCloud上で無料ダウンロード提供しています。
楽曲はソフトウェアのように時々バージョンアップする可能性がありますのでご了承ください。

曲のライセンス

All songs here are licensed under aCreative Commons 表示 - 改変禁止 3.0 非移植 License.
楽曲は上記CCライセンスのもとで2次使用が可能ですが、以下の点にご注意ください。
ライセンスは楽曲全体に付与していますので、歌詞・コード・メロディ・楽器のフレーズなど一部のみの2次使用はご遠慮ください。
楽曲の前後をカットすることは「改変」に含めませんので禁止しません。
2次使用の際にご連絡いただけると嬉しいです!